設置趣意書

本学設立について

1. はじめに

社会福祉法人太陽会は、千葉県館山市において安房地域医療センターを開設しているほか、千葉県鴨川市において介護施設、障害者施設等を設置している法人である。社会福祉法人太陽会は、安房地域医療センターの近隣において、安房医療福祉専門学校を設置し、2014年4月から、3年制の専門課程による看護師教育を行おうとしている。本文書は、その趣意を述べるものである。

2. 看護師養成の必要性

わが国では、人類史上例のない速度と規模で高齢化が進展している。国立社会保障・人口問題研究所の推計[1]によれば、2030年の人口は、2010年と比較して全国で1195万人減少する。これに対して、65歳以上の人口は726万人増加する。このうち37%にあたる267万人は、首都圏の1都3県における増加分である。

高齢化は、首都圏で医療・介護需要を爆発的に増加させる。医療計画における基準病床数の算定式と都道府県別将来推計人口を用いた試算[2]によれば、2030年の一般病床の需要は、2010年と比較して全国で12%、病床数にして8万6723床増加する。埼玉、千葉、東京、神奈川では20%以上、病床数にして4万1984床増加する。2030年の療養病床・入所介護の需要は、2010年と比較して全国で65%、病床数にして84万7822床増加する。東京では78%増加し、埼玉、千葉、神奈川では100%以上増加する。埼玉、千葉、東京、神奈川での増加分は病床数にして28万8059床である。

これに対して、千葉県の医療資源は極めて貧弱である。千葉県保健医療計画[3]によれば、2009年10月1日の人口10万対病院一般・療養病床数は、全国974.5床に対して、千葉県709.0床、47都道府県中45位であった。2008年末の人口10万対医療施設従事医師数は、全国212.9人に対して、千葉県161.0人、47都道府県中45位であった。2008年末の人口10万対就業看護師数は、全国687.0人に対して、千葉県479.8人、47都道府県中46位であった。

とりわけ看護師不足は、千葉県における医療供給の大きな阻害要因となっている。看護師の量は医療の質に直接的に影響するため、保険診療においては、入院患者あたりの必要看護職員数が厳密に規定されているからである。千葉県は、2012年3月30日、保健医療計画に基づく3206床の病床配分を発表した[4]が、これを裏付ける看護師を確保できる目処は立っていない[5]。千葉県地域医療再生計画[6]によれば、千葉県の人口あたりの看護学生数は、2009年度において、既に47都道府県中45位と最低レベルであった。ところが、2010年7月23日に開催された千葉県医療審議会地域保健医療部会における報告[7]によれば、2009年度には千葉県で2382人あった看護師課程1学年定員は、2013年度には2083人にまで減少する見込みである。

このままでは、千葉県の医療崩壊が別の次元に進みかねない[8]。必要な医療・介護を受けられない者が大量に出現し、社会不安を生じかねない。例えば、安房地域医療センターでは、高齢者の急患が増える冬に病床が不足する状況が続いている。同じ安房保健医療圏にある亀田総合病院においても、需給の逼迫した周辺の2次保健医療圏、さらに千葉県北部や東京からの患者の流入が増え続けており、救急医療のための病床確保が難しくなっている。壊滅的な供給不足を回避するうえで、看護師養成は猶予の許されない課題である。

3. 看護師教育の有用性

企業間のグローバルな競争の激化と、技術革新の加速による省力化は、雇用なき成長という事態をもたらした[9]。給与の保障された持続的雇用は労働市場から失われつつある。加えて地方財政の悪化により、地方ではこれまでの雇用維持の仕組みが破綻した。確かに2008年9月のリーマン・ショックは、わが国の雇用情勢に深刻な影響を与えたが、背景にはより大きな構造的問題が存在するのである。

これから先、とりわけ地方において人々の生活を成り立たせていくには、雇用につながる教育を提供することが不可欠である。厚生労働省の統計[10]によれば、2011年のパートタイムを除く常用の有効求人倍率は、全職業では0.52倍であったのに対して、「保健師、助産師、看護師」では3.01倍であった。医療・介護は地域密着型の対人サービス業であり、強い労働吸収力を有する。看護師教育は雇用に直結するのである。

このことを反映して、近時、看護専門学校の人気は高まっている。厚生労働省の調査[11]によれば、2011年度の看護師3年課程の競争率は、全国4.2倍、千葉県4.3倍であった。2011年度の看護師3年課程の充足率は、全国101.9%、千葉県104.7%であった。

4. 社会福祉法人太陽会が看護師教育を行う意義

社会福祉法人太陽会は、亀田総合病院を開設する医療法人鉄蕉会、亀田医療大学と亀田医療技術専門学校を設置する学校法人鉄蕉館と協力関係にあり、1つのグループを形成している。この3者の中で、社会福祉法人太陽会が、安房医療福祉専門学校の設置主体として最も相応しいと考える理由を述べる。

看護師教育においては臨地実習が重きをなす。教育の効を上げるには、実習施設との密接な連携が不可欠である。実習施設の性格が看護師教育の特色を決めるといってよい。学校法人鉄蕉館は、既に亀田総合病院と連携して全国区で高度医療の担い手を育成している。安房医療福祉専門学校は、安房地域医療センターを主たる実習施設として、より地域に根ざした医療の担い手を育成しようとするものである。主たる実習施設と同じ経営主体が看護師教育を行うことで、より特色ある看護師教育を行おうとするのである。

また、看護師教育には多額の費用がかかり、母体となる病院からの金銭的支援が欠かせない。ところが、社会福祉法人はその公的性格ゆえに資産が流出しないよう強い規制を受けている。別の経営主体にしてしまうと、安房地域医療センターが安房医療福祉専門学校の母体として金銭的支援を行うことは不可能になる。

さらに、労働市場の変容により、教育、保育、介護、医療など、様々なサービスを密接に連携させ、人々の就労、社会参加を支援していく新しいモデルが求められている。社会福祉法人太陽会は、1987年の設立以来、様々なサービスを通じて、地域における社会福祉の増進に努めてきた。新しいモデルの担い手に相応しいと自負している。安房医療福祉専門学校においては、社会福祉法人太陽会の特色を活かし、生徒の教育と支援を連携させていきたいと考えている。また、様々なサービスの提供主体であることを活かし、医療のみならず、広く介護、福祉の現場で活躍しうる看護師を輩出していきたいと考えている。

学校教育法127条は、国、地方公共団体以外の者が専修学校を設置する条件として、経済的基礎、知識・経験、社会的信望を要求している。これを受けて千葉県の私立専修学校・各種学校の設置認可に関する基準は、専修学校の設置者を原則として学校法人としている。しかし、看護師教育における実習施設との連携の必要などから、これまでも社会福祉法人、医療法人等による看護専門学校の設置は広く行われてきたところである。社会福祉法人太陽会の2011年度の事業活動収入は60億2086万円、経常収支は3億2877万円の黒字、特別収支を含めた活動収支は2億7994万円の黒字であった。これまで黒字決算を重ね、経営は安定している。2012年6月の従業員数は642名、役員には学校経営に必要な知識・経験を有する者が多くいる。社会福祉法人太陽会は、学校教育法127条の要求をみたすものと考える。

5. おわりに

看護師養成は、千葉県において医療提供体制を確保していくうえで喫緊の課題である。看護師教育は、雇用に直結し、地域の生活保障に有用である。安房医療福祉専門学校が、安房地域医療センターと密接に連携し、その支援を受けながら特色ある看護師教育を行うために、そして、社会福祉法人太陽会が、地域における社会参加支援の新しいモデルを構築していくために、安房医療福祉専門学校の設置主体として社会福祉法人太陽会が相応しい。社会福祉法人太陽会が、安房医療福祉専門学校を設置し、看護師教育を行おうとするのは、このためである。

文献

  1. 国立社会保障・人口問題研究所. 日本の都道府県別将来推計人口 (2007).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).
  2. 小松俊平, 渡邉政則, 亀田信介. 医療計画における基準病床数の算定式と都道府県別将来推計人口を用いた入院需要の推移予測. 厚生の指標 59(1), 7-13 (2012).
  3. 千葉県. 千葉県保健医療計画 16-30 (2011).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).
  4. 千葉県. 千葉県保健医療計画に基づく病床配分について (2012).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).
  5. 小松秀樹. 病床規制の問題3―誘発された看護師引き抜き合戦. MRIC 566 (2012).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).
  6. 千葉県. 千葉県地域医療再生計画 2-8 (2011).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).
  7. 千葉県. 看護職員養成課程定員の推移 (2010).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).
  8. 小松秀樹. 病床規制の問題1―千葉県の病床配分と医療危機. MRIC 539 (2012).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).
  9. 宮本太郎. 生活保障―排除しない社会へ 106-117 (岩波書店, 2009).
  10. 厚生労働省. 平成23年度看護師等学校入学状況及び卒業生就業状況調査 (2011).
    関連サイトはコチラ >>> (2012.8.13).